わっしーでーす

◎わっしーメモ80
鏡に向かって

　「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番めっこい（かわいい）のは俺だども、二番目は誰だ？」。母の〝お得意〟のフレーズでした。
　春になると、童話の白雪姫の〝魔女みたいに、鏡に向かって認知症の母が問いかけている姿を何度も見たことを思い出します。
　閉じこもりがちな冬から春となり、外出のためにお洒落をするのが楽しいのでしょう。
　　鏡に向う母に私が横やりを入れ、「かかりつけ医の看護師さんが一番めっこい」と答えたら、「鏡がしゃべるわけないだろ。
　良平、あちゃくせ（バカくさい）こと言うな」と母に叱られました。「かあちゃん進んだの～（認知症の症状が進行したようだ）」
　と返すと、「おれはめっこいがらいいあんだ」と、ごしゃく（叱る）のでした。
　　女性はいつまでも美しさや装いを大切にしているのだなと実感した出来事でした。暇さえあれば鏡を眺めている母の姿に、驚きもありましたが…。
（鷲田良平＝公益社団法人・認知症の人と家族の会、山形県支部世話人、荘内日報社総務局主任）